00年代の殺人鬼/ハチェット

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00年代のホラー映画を代表する殺人鬼とは誰だろうか?

真っ先に浮かぶのは、やはり『SAW』シリーズのジグソウであるが、個人的にあまり殺人鬼という印象がない。『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス、もしくは『13日の金曜日』のジェイソンなんかを基準として考えると、ジグソウはどうにも小賢しいのだ。

それに、ちゃんとした動機がある。悪趣味極まりないのは確かだが、彼は殺人鬼というより、殺人者である。

ジグソウのような、罠を張り巡らせて人間を殺す『ワナオトコ』ことザ・コレクターというヤツがいる。コイツは殺人鬼だ。まったく意味が分からないからね。人の家に侵入して、罠だらけにして、住人を殺す。人をさらったりもする。『ワナオトコ』の続編である『パーフェクト・トラップ』の冒頭、大勢の若者が躍っているクラブでの大虐殺は、彼にしかできない芸当だろう。

前回記事にした『クロムスカル』も、00年代を代表する殺人鬼だろう。というより、00年代の殺人鬼って、クロムスカル、ザ・コレクター、そして今日の主役、ヴィクター・クロウリー以外に誰かいたかな。

『SAW』のヒットにより、低予算シチュエーション・スリラーが量産された時代であるから、ジグソウのような殺人者はたくさんいるとしても、殺人鬼となると……『シー・ノー・イーヴル 肉鉤のいけにえ』のジェイコブがいたか。アメリカのプロレス団体WWEが制作した映画で、殺人鬼ジェイコブ役はWWEのスター、ケインだ。オーストラリアを舞台にした『ウルフクリーク』シリーズのミック・テイラーもいた。彼も、まごう事なき殺人鬼だ。ニューヨークの地下鉄に潜むブッチャーである『ミッドナイト・ミート・トレイン』のマホガニーも殺人鬼だろう。考えれば意外と出てくるものだ。たくさんのスラッシャーホラーを制作してくれて、本当にありがたい。

さて、今日はヴィクター・クロウリーの話だ。なんとなく懐かしくなり、『ハチェット』を十数年ぶりに見返したのだが、やはり景気の良いスプラッターであった。殺人鬼であるヴィクター・クロウリーが、森で犠牲者を次々と殺していく、ただそれだけの映画。こう、登場を焦らしたりとか、そういったこともなく、いきなりガオーとフレームインしてくる怖さは、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスを彷彿とさせたりも。設定的には『13日の金曜日』のジェイソンと似通っているのだが、ズシン、ズシン、とゆっくり獲物を追い詰めていく彼に対し、ヴィクターは軽快に動き回るフッ軽。すばしっこい巨体がいきなり画面に現れて、できるだけ惨たらしく人間を殺す。それでいて、反撃を受けたらしっかりと痛がる。ウアアアと声を上げてよろめく姿は、少しキュートですらある。魅力的な殺人鬼だ。

本作はコメディとして作られており、それゆえに、ドキドキハラハラといったサスペンス性は皆無だ。前述のとおり、ヴィクターの出し入れもわりあい適当。”ホラー映画”として見るならば、「殺し」に目を見張り続けるのが正しい鑑賞態度と言えるのだが、コレが素晴らしいのだ。SFXを務めたジョン・カール・ビュークラーは、特殊メイクアーティストとして活躍したベテラン。監督としても、13日の金曜日PART7を手がけたことで知られている。彼の仕事を見るだけでも、『ハチェット』には十二分の価値がある。

ちなみにジョン・カール・ビュークラーは、自分の小便を飲む男ジャックの役で本編にも出演している。他にも、『エルム街の悪夢』のフレディ・クルーガー役で知られるロバート・イングランド、『キャンディマン』のトニー・トッドが特別出演(ロバート・イングランドにいたってははらわたまで見せてくれる!)しているのに加え、ヴィクター・クロウリーを演じるのは『13日の金曜日』シリーズの7~10にてジェイソンを演じたケイン・ホッダーだ。アメリカのホラー界隈はいつだって狭いものである。

さらにキャストの話をしよう。主演のジョエル・デヴィッド・ムーアは、『アバター』シリーズで最も知られ、現在は監督業にも進出している俳優だ。いかにも00年代な出で立ちの冴えない主人公を好演している。IMDbによると、作中で嘔吐した吐瀉物は本物とのことで、役者魂がうかがえる。ポルノ監督役のジョエル・マーレイは、『ゴッド・ブレス・アメリカ』の主演として日本でも知られている顔だ。また、ジム役のリチャード・リールは、200本を超える映画に出演している大ベテラン。Wikipediaによると、これまでに8回サンタクロースの役を演じているそうだ。また、監督のアダム・グリーンも、主人公の友人役として出演している。マルディグラでの猥雑なオープニングで、キャップを被った彼の姿を見ることができる。

『ハチェット』シリーズはこの後、2作目『アフターデイズ』、3作目『レジェンド・ネバー・ダイ』、そして4作目『ヴィクター・クロウリー 史上最凶の怪人』と続いていく。サブスク配信はされていないがどれも面白いんで、是非レンタルショップに足を運んでいただきたい。ちなみに私は、最寄りのTSUTAYAに無かったため、宅配レンタルを利用した。そこまでして見る映画かと聞かれれば答えはYESだ。すべての映画がそうであるのだ。

ライター:城戸