地下鉄ホラーというジャンルがある。数こそ多くないものの、『0:34 レイジサンジュウヨンフン』、『ミッドナイト・ミート・トレイン』、『サブウェイ NY』、最近では『オクス駅お化け』や、シンガポール産の『グアイウ 地下鉄の怪物』など、(『オクス駅お化け』はまだ未見なのだが)魅力的な作品の揃った好ジャンルだ。
今回は、そんな中でも、特に私が好きな一本を紹介したい。『11:46 ジュウイチジヨンジュウロップン』だ。地味な低予算映画の為、劇場公開された『0:34 レイジサンジュウヨンフン』に便乗せざるを得なかったのであろうタイトルが微笑ましい。ちなみにキャッチコピーは、『終点まで生き延びたい』。こちらも、『0:34』の『始発まで生きていたい』を文字ったものとなっている。サブスク以前は、こういったメジャータイトルへの便乗をどこの配給会社も当たり前のようにやっていた。まあ褒められた商法ではないだろうが、私はいち消費者として、この便乗合戦を楽しんでいた。”便乗映画”にも、面白いものがたくさん眠っていると知っていたからだ。この『11:46』も、そのお宝のひとつである。
物語はシンプルだ。主人公が地下鉄に乗ると、トンネル内で緊急停車してしまう。何かしらと思っていると、乗り合わせていた人々が刃物を持って立ち上がり、殺戮を始めてしまったのだ!彼らの正体は、ある宗教団体の信者たち。『使命を果たせ』という命令のもとに非信者たちを次々と救済(コロ)していく信者たちから、主人公を含む非信者たちは逃げ切れるのか……といった、いわばサバイバル・ホラーである。
前述のとおり、見栄えは非常に地味であるのだが、コレが面白いのだ。それも当然だ。地下鉄を舞台に殺人カルトと追いかけっこをするわけだ。面白いに決まっている。あらすじ以上のことがなにも起こらない簡素さが受け付けない人もいるだろう。しかしながら、本作にはサスペンスが器用に連続している。この規模のホラー映画としては登場人物が多く、それぞれ置かれた立場も異なっていることから、様々なシチュエーションが提示されていく。センスも良い。作中で殺戮を始める『希望の友』は、アングラカルトというわけではなく、多くの信者を抱える有名な宗教団体であるから、テレビの電波をジャックすることもできてしまう。どのチャンネルをつけても同じ画面が映っているのだけど、その画面がこう、異様というか、独特なのである。私のような凡人であれば、たとえばドクロを映してみたりとか、祭壇を映してみたりとか、そんな程度の発想になるだろうが、『11:46』のソレは洒落ているのだ。こういったクリエイティブを楽しめるのも、映画の魅力のひとつである。
本作の監督はモーリス・デヴェロー。モントリオール出身の映画製作者。世界的に高い評価を受けた本作を最後に、おおよそ18年余り新作を発表していない。本作以前に彼がいくつか製作したインディーズ・ホラーはどれも超面白そうなのに、ことごとく日本未公開。新作が期待できないのであれば、せめて過去作を輸入してほしいものだ。
また、特殊メイクを担当したのは、のちの2023年に『ザ・ホエール』にてブレンダン・フレイザーを272kgの大巨漢に変身させ、オスカーを獲得するに至ったアドリアン・モローであり、本編に多く含まれるイヤ~な流血描写の素晴らしさにも納得させられる。メーカーによる”『300/スリーハンドレッド』のスタッフが贈る”という惹句は彼を指しており、他にも数多くのメジャー映画にクレジットされている超大物だ。
カナダ映画ということもあってかキャストはあまり馴染みのない面子なのだが、メインキャストであるニコラス・ライトはローランド・エメリッヒの『ホワイトハウス・ダウン』で印象的なキャラクターを演じていた俳優。その後、同監督の『インデペンデンス・デイ リサージェンス』にも出演、だけでなく、脚本家としてローランド・エメリッヒ、ジェームズ・A・ウッズと共にクレジットされてもいる。また、2024年にはジェームズ・A・ウッズと共に、ザック・ブラフ主演『フレンチ・ガール』(WOWOWオンデマンドで配信中)の監督・脚本を務め、現在はローランド・エメリッヒと共にリブート版『スターゲイト』の制作に脚本家として携わっている注目株だ。これから、よく名前を聞く存在になるかもしれない。
ニコラス・ライトといえば、主演作『デビル・リベンジャー 復讐の殺人者』も印象的な映画だ。木のバケモノが出てくるテレビ映画で、なんてことのない映画かもしれないけども、脚本を務めるのが『死霊館』ユニバースや『IT ~それが見えたら、終わり~』シリーズの脚本家として知られるゲイリー・ドーベルマン。語り口が非常に面白く、ニコラス・ライトの役どころもユニークで、もし機会があれば是非見てみてほしい小品だ。
『11:46』を見て懐かしくなったんで、同じく地下鉄ホラーである『サブウェイNY』も一緒に取り寄せて鑑賞をしてみた。
学生時代に見て面白かった記憶があるし、ブレッキン・メイヤー、キップ・バルデュー、ヴィネッサ・ショウというキャストも魅力的で楽しみだったのだが、いかにも00年代なガチャガチャ編集はいいとしてもカメラの揺れがあまりにひどく、記憶していたよりは……という印象。つまらなくはないんだけど。昔見て面白かった映画って大体今見ても面白いから、そうでもなかったのがちょっとショックであった。
まあ、だから何なんだという話ではあるが、記憶だけで「傑作!」なんて言ってると、ウソをつくことになりかねないなと実感した。今見ると、全然そうは思わないかもしれない。人間は変わっていくものなのだ。
ライター:城戸