私とレンタルショップとのお付き合い/『ツイてない男』

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地元に、あるレンタルビデオショップがあった。そのショップはTSUTAYA系列の小さな店舗で、品ぞろえも限られていたが、毎週水曜日は旧作50円(メール会員は金曜日も50円だった!)という驚異の二桁により、まだ映画を見始めたばかりの貧乏な高校生は、毎週欠かさず通い詰めていた。バイトも部活もやっておらず、趣味といえばインターネットくらいのもの。熱中していたメタルギアオンラインのサービスも終了してしまい、やることがなかったのだ。最低でも週に10本は借りていた。




その10本のうち、9本はいわゆる”ジャンル映画”だ。娯楽映画とか、B級映画とか、色々と言い方はあるけれども、とにかく、速い車や銃や殺人鬼の出てくる映画ばかりを好んで見ていた。アクション、サスペンス、ホラーの映画は、すべて一列に並んでいて、そこを往復するだけで、放課後の時間がとても有意義に感じられた……のだが、私はその時間を一通り謳歌したのち、ドラマ・ロマンスの棚に目をやることも忘れなかった。”ちゃんとした映画”も見なくては……。というプレッシャーがあったのだ。




”ちゃんとした映画”かそうじゃないか、という感覚は、ある程度共有できるものだと思う。私が最も映画を見ていた2012年に公開された映画で例えてみよう。『最強のふたり』は”ちゃんとした映画”だ。対して、『極秘指令ドッグ×ドッグ』は”ちゃんとした映画”ではないだろう。『少年は残酷な弓を射る』は”ちゃんとした映画”だが、『シャーク・ナイト』は”ちゃんとした映画”ではない。『ダークナイト ライジング』は”ちゃんとした映画”だが、『ゴッド・ブレス・アメリカ』は”ちゃんとした映画”ではない……。




”ちゃんとした映画”ではない映画に接するとき、たいてい誰しもが、上から目線になってしまうものだ。「B級なのに面白い」とか、「頭を空っぽにして見られる」とか、そういった風に。私もそれに漏れず、その見下しをより意識的に感じながら、”ちゃんとした映画”ではない映画ばかりを楽しんでいた。つまり、自分がいま見ていて、愛好しているこの作品群は、”ちゃんとした映画”より価値の低いものである、と思い込んでいたのである。だからこそ、人間としてひとつ理性を利かせる為に、ドラマ・ロマンスの棚に目をやっていたのだ。アクションやホラーやサスペンスといった低俗なジャンルより、ドラマやロマンスのほうがエラいのだからね。




その考えがなんとくだらないものか分かるようになったこと以外は、今も大して変わらない。TSUTAYAに行く回数は減った(SHIBUYA TSUTAYAが無くなったのは強烈な一打であった)が、サブスクで同じように棚を往復することはできる。とはいえ、まだ存在してくれるうちは、TSUTAYAにも通いたい。さいわいにも、私の住む西荻窪にはまだTSUTAYAがあり、DVDのレンタルもやっている。地元で通っていた店よりも狭い店舗ではあるが、背表紙を吟味して青春に立ち返る感覚は未だに消えない。おっと、懐かしいタイトルを見つけたぞ……

 

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レンタルして見返してみたが、主演のスティーヴン・ドーフとは今もそれなりの付き合いがあり、彼の出演作で好きなものも数多くある(からこそ日本で本作を売るために彼が表紙にいる必要はないだろうという判断が悲しい)のだが、ジェイミー・マーレイの顔にひたすら懐かしさを覚えるばかりであった。現在もドラマシリーズを中心に活躍しているようだが、本作と同時期に公開された殺人ループもの『今日も僕は殺される』や、大量のゾンビたちがパルクールで街を暴れまわる『ラン・オブ・ザ・デッド』を最後に、10年ほど彼女を見る機会が無かったのだ。ジェイミー・マーレイか……。『ツイてない男』の内容はまったく覚えていなかったものの、ジェイミー・マーレイを見て「なんてキレイな人だろう」と感じたことだけは思い出した。いや、内容も面白かったのだが。




さて、本作の配給はワーナーだが、私がレンタルショップに入り浸っていた当時は、ワーナーや20世紀FOX、ソニーピクチャーズといった大手の配給会社が、ビデオスルー(劇場公開はせず、販売・レンタルを目的に作品を輸入すること)の低予算映画を配給することが多々あった。代表的なものが20世紀フォックスによる『ナポレオン・ダイナマイト』、当時は『バス男』という邦題で、知る人ぞ知る名作という扱いだった。また、エドガー・ライトの『ショーン・オブ・ザ・デッド』も、元々はユニバーサルのビデオスルー作品であった。




のちに日本でも人気監督になったエドガー・ライトの例はともかく、監督の名前を言える人は少ないであろう『ナポレオン・ダイナマイト』が再評価され邦題が改名されるまでになった(これが10年以上前の話だなんて!)のは、やはり当時のDVDレンタル文化がまだ根強かったからだろう。今となってはそんなこと起こりようもないだろうし、この『ツイてない男』も、ほとんど人に知られぬまま埋没し続けるのだろう。まあ、『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ナポレオン・ダイナマイト』ほどの出来でないのは確かだろうけども。




さて、あとはスティーヴン・ドーフの話を……と行きたいところだが、このままでは止まらなくなってしまう。自重しておこう。この文章を読み返してみると、まさに散文極まれりといった様相だ。文章を通して何の話をしたいのかまったく分からない。この連載では、このように、主に映画について、私がただしたい話をするだけの記事を書いていこうと思っている。このような場を提供してもらえることに感謝したい。これからもよろしくお願いいたします。ちなみに『ナポレオン・ダイナマイト』の監督はジャレッド・ヘス。2025年に公開される、『マインクラフト/ザ・ムービー』を監督している。