皆さんは西条八十という詩人をご存知でしょうか。
日本を代表する大詩人であり『青い山脈』『蘇州夜曲』の作詞者であり、童謡も数多く、有名な「かあさんおかたをたたきましょう♪」(童謡『肩たたき』)に至っては幼児でも知っていることでしょう。
他にも金子みすずを見出したり、フランス詩人ランボーの研究で有名だったり……と、いわゆるれっきとした大御所の大詩人です。
そんな大詩人が、戦後まだ娯楽の少なかった時代に書いていたのは、なんと今で言うところのライトノベル、当時で言うところの『少年少女冒険探偵小説』なのです。その本が実に六十九年ぶりに復刻されたのが今回紹介する『あらしの白ばと』になります。
まずこれが連載されていたのは『女学生の友』、連載開始は昭和二十七年です。しかしそんな古さなど微塵も感じさせない、今現在の世の中にも通用する、少女による少女のための少女の物語なのです。
まずはこの物語の主人公三人組、そのうちのリーダーの日高ゆかりは両親を空襲で亡くし、その遺産と屋敷を受け継ぎ屋敷で友達と暮らしています。おじが警視総監であり本人も柔道やフェンシングなどが大好き。れっきとしたリーダー格です。
そしてこの屋敷で一緒に暮らすのは辻晴子。とても頭が良くさらにはなんと自動車の運転が得意。
更にもう一人が吉田武子。とても体格が良くすごく力持ちなので「べんけい」というあだ名がついています。
この三人の男勝りな少女達、人呼んで「白ばと組」が、わけあって悪の製薬会社に捕まってしまった少女桂子を助けに行くぜ!というのが今回の物語になります。
江戸川乱歩の少年探偵団の活劇は今でもよく読まれていますが、本書はおそらくは日本発、そして世界でも魁を行くかもしれない「少女探偵団」の物語であり、日本が世界に誇る美少女戦士などの「少女が戦うストーリー」の走りなのです。ちなみに連載は八年。全五部でこれは第一部です。当時は
「思いがけぬ不運に見舞われた桂子、白鳩3人組に助けられ幸福になるまでの友情物語」
などという広告が入っていたとのことですが、この度発売された新装版の帯には、
「ペルーから来た老人、謎の純金人形、少女を狙うギャングたち、恐ろしい毒へび、地下室での監禁、とんでもない秘密兵器……絶体絶命の危機に正義の少女たちが立ち向かう! 想像力のリミッターが外れたなんでもありの大冒険活劇!」
おや? なんだかちょっと様子が違うぞ? とお思いの方、大正解です。
『青い山脈』で一世を風靡した爽やか青春ソングや「かあさんおかたをたたきましょ♪」の作詞者とは思えない、とんでもないカオスが繰り広げられているのがこの
『あらしの白ばと』なのです。
そもそも物語の始まりからしてうっかり怪しいアルバイトに応募してしまった(現代でいうところの『闇バイト』ですね)桂子が、製薬会社の社長、本作のボスに捕らわれてしまうところからスタートです。
そしてそんな彼女を助けに行く白ばと組の少女三人ですが、高級外車を堂々と乗り回し、ピストルや機関銃はもうお手のもの、悪党を「ちょっとした」拷問に掛けることだって平気のスーパーガールたちなのです。
『女学生の友』だなんて、いかにも「清く正しく美しく」みたいな雑誌、今で言うところの学年誌『小学六年生』とかそれに近い媒体で、女の子たちが大活躍というよりは大暴れする大活劇物語を連載していたのです。
なお雑誌だったため、新年号では景気よく、あの古関裕而、甲子園の『栄冠は君に輝く』で有名な作曲家とコラボして、『白ばと組の歌』を発表したりなどという、なかなかすごいことをしています。
物語の締めくくりも、この『白ばと組の歌』です。さすがは大御所の大詩人ですね(読んでいる間、あまりのカオスにそんなことはまるっと忘れてしまいますが)
なにせラストシーンでは主人公のリーダーゆかりのおじが警視総監なのいいことに、警視庁から戦車まで出させてしまうフリーダムっぷりなのです。
戦車! 飛行機! 機関銃! 毒蛇に毒ガス! 電気柵! これ本当に少女向けでよかったの……? みたいな、パワーの上にパワーを重ねまくった物語の終盤は必見です(由緒正しき少年探偵団の系譜でもある『名探偵コナン』の映画版クライマックスでもやらないよこんなとんでもないやつは! と思わず頭を抱えてしまう、そんな怒濤のやりたい放題がここにあるのです)
少女による少女のための少女の物語ですが、六十九年という時代を経て、少女なんてとっくに通り越した大人の女性や、少女小説なんて興味ないねというという殿方全般、様々な年代の人が性別を問わず読める一冊になって返ってきたのです。
昔そういえば少年探偵団にハマっていたなあ、とか、アクション大好き! とか、女の子の友情いいよね……という人などなど皆、是非とも一度お手に取ってみてください。
そして物語の最後には『白ばとの歌』、
「ピジョン! ピジョン! ホワイト・ピジョン! われらは白ばと 三羽の白ばと」
を、一緒に唱和しましょう!
ライター:@akinona
