世界の終焉を撮りたい。しかし、自分はディズニーでもNETFLIXでもない。金はあまり無いし、チームも最低限の人数だ。それならば、いかに金を使わず、アポカリプスを撮ってみせようか?いいアイデアがひとつある。主人公をラジオDJにしてしまうのはどうだろう?
……なんてやり取りが実際にあったかどうかは知らないが、今回紹介させていただく『レディオ・オブ・ザ・デッド』と『ON AIR 脳・内・感・染』は、まさにラジオDJの視点から世界の終焉を描いた作品だ。カメラがラジオブースを出ることはほとんど無く、リスナーからの電話やニュースの映像から、どうやら外が大変なことになっているらしいということが分かってくる。非常に想像力を掻き立てられる映画なのだ。
まずは『レディオ・オブ・ザ・デッド』から。100万人以上のリスナーを持つ大人気DJ・ローガンは、あるリスナーから「町が攻撃を受けた」と知らせを受ける。ラジオ局の外では、人が人を貪る光景が広がっていた……。
こちらは、非常に分かりやすいゾンビ映画だ。ゾンビはオーソドックスなタイプ(走るよ!)で、引っかかれただけで感染してしまうシビアさは少々ユニークか。また、パンデミックを仕掛けたテロリストが登場したり、登場人物のひとりがラジオ局の外に出たりと、立てこもっている人たちをメインに据えた限定的なシチュエーションの中で、動的なサスペンスがもたらされているのが嬉しい。全編に細かな工夫が効いていて、だれでも楽しめるように作られている。直接的なショック描写にはあまり期待できない(そもそもゾンビ自体そんなに登場しない)が、これだけ普通に面白ければ、映画は十分ってものだろう。
監督を務めるのは、俳優コービン・バーンセン。ブライアン・ユズナ『デンティスト』やデヴィッド・S・ウォード『メジャーリーグ』への出演でよく知られ、他にも多くの作品に出演するベテランだ。監督としても活躍し、本作は3本目の監督作。主演は、『悪魔のいけにえ2』や『マーダー・ライド・ショー』など、ほか多くのホラー映画に出演し、ホラーファンには馴染みのビル・モーズリー。口の悪いラジオDJ、ローガン・バーンハートを、持ち前の低い声で好演している。たとえばロバート・イングランドや、トニー・トッドや、ランス・ヘンリクセンらのように、画面に映っているだけで、どんな映画でもそれなりに見せてしまう華の持ち主なのだ。
全体的に面白く見られる映画だということを強調したいところなのだが、何より、終盤にちょっとヘンなところがあるので、そこも是非見てほしい。「現場で何かあったのかな?」と勘ぐってしまうような仕上がりとなっている。ただ、本作は2009年の製作。今では考えられないような平成のセンス(アメリカだって平成のダサさとは決して無関係じゃない)によってまっすぐ成された演出である可能性も少なくはないだろう。
さて、そして……今回のメインは『ON AIR 脳・内・感・染』のほうだ。こちらは、ビデオスルーながら日本でもちょっとだけ知られたタイトルなんで、聞いたことのある人もいるかもしれない。2008年のカナダ映画で、その斬新な設定が話題になったのだ。私も16歳の頃にゲオでレンタルし、熱狂した。
カナダの雪深い田舎町、ポンティプール。町民向けのラジオを発信するDJ・グラントは、生放送中に気象予報士のケンから「町で暴動が起こっている」と報告を受ける。凶暴化した住民が、手当たり次第に人を襲っているというのだ。グラントとプロデューサー、そしてアシスタントの3人は、何が何だか分からないまま、ラジオ局に立てこもることになるのだが……。
序盤のあらすじは『レディオ・オブ・ザ・デッド』とほとんど同じなのだが、明らかに空気感の違う作品だ。『レディオ~』のほうは、コメディというわけではないし凄惨な展開もいくつかあるものの、いかにもアメリカ映画っぽい能天気な空気が充満している。対して、カナダ映画である本作は、落ち着き払った、静かな面持ち。ジョージ・A・ロメロ『ランド・オブ・ザ・デッド』にて撮影監督を務めた経験もあるカメラマン、ミロスラフ・バシャックによる重厚な映像はもちろん、DJを演じるカナダのベテラン俳優スティーヴン・マクハティ(共演しているリサ・ハウルとは、実際の夫婦である)の渋すぎる声も格式高さに一役買っているところだろう。
やはり、本作の最もユニークな点は、ゾンビ・ウイルスの感染経路だ。あらすじで紹介してしまっているサイトもあるが、ここは是非、知らずに見ていただきたいところ。もちろん、知ってしまったところで、面白さを損なうわけではない。ただ、この設定は、本作を有象無象と差別化するという点のみならず、映画をスゴイところまで運んでいってくれる、本当に素晴らしいアイデアなのだ。この、ごくミニマルなアイデアによって、観客は涙を流すことになるだろう。
もちろん、本作は「泣ける映画」として知られているわけではない。「泣いた」と言ってる人なんてほとんどいない。しかし、終盤、ある二者による言葉の応酬を見て、泣かずにはいられない人は多くいるはずだし、カッコつけて言ってないだけだで本当はみんな泣いてると思う。B級ホラーで泣くのは恥ずかしい?そんなことはない。みんなが泣いてる映画で一緒になって泣くよりよっぽど楽しいじゃないか!
ライター:城戸