昨今では『悪役令嬢』なるものが大ブームということですが、そこで私が一押ししたい小説はこちら、『風と共に去りぬ』です。
言わずと知れたハリウッドの名作映画で有名な、世紀のロマンス小説です。
主人公はスカーレット·オハラ。常識に抗って生きる彼女の生き方を描く大河小説であり、同時にアメリカ南北戦争を描いた、今のアメリカにもそこはかとなく通じる南北の文化の違いの物語。
つまりは「悪役令嬢スカーレット·オハラは見た! ここがヤバいよアメリカ南北戦争スペシャル」みたいな物語でもあります。
スカーレットは映画では絶世の美女でもある銀幕スター、ヴィヴィアン·リーが大変美しく演じていますが、この作品の原作全5巻の冒頭にはこうあります。
「スカーレット・オハラは実のところ美人ではなかったが」
(新潮文庫(鴻巣 友季子訳)『風と共に去りぬ』8p)
つまり映画のアレはちょっと盛りすぎ、ということです。
けれど学校のクラスに一人くらいはいる『美女じゃないのにやたらモテて同性からはちょっと嫌われる感じの勘違いわがままガール』。あんな子なのです。そんなアメリカ南部の田舎のお金持ちでこの世は全て私のものよ感満載で、近隣のグッドルッキングガイたちをはべらせてファビュラスに生きるスカーレットが、近所に住まう知的イケメンなアシュリ氏に失恋するところから物語はスタートです。
失恋でやけっぱちになったスカーレットはなんとアシュリの奥様のメラニーの兄とやけっぱち結婚してしまいます。しかし時代はアメリカ南北戦争。出征したスカーレットの夫は戦場であろうことかあっさりと病死してしまいます。超高速未亡人ルートですね。
1巻の田舎のモテモテガール生活から突然、まだ10代なのに南北戦争の未亡人になったスカーレット。しかもモテモテガールだった頃の取り巻きのグッドルッキングガイ達は戦争でほぼ全滅(大河ドラマなどでナレーターのみで登場人物の死亡を告げるのを『ナレ死』といいますが、新聞の死亡欄で書かれただけなのでこれは『新聞死』でしょう)という惨憺たる有様。
この南北戦争の描写、非人道的な塹壕戦に老人や黒人が駆り出される南部アメリカの様子は、南部出身の作者のミッチェル女史がとても綿密に調べ上げて書いている迫真の描写です。
なお「アメリカやばいな…民族の分断ってニュースではよく聞くけど、昔こんな大戦争してたんならそりゃあ今でも分断もするだろうな……」という真面目な感想も出てくるので、アメリカの大統領選挙前に読んでおくといいことがあると思います。具体的には、アメリカという国への解像度が少し深まります。
そして、この戦火から逃れるためにスカーレットは、ほぼ詐欺師だけど何故か子供好きな知り合いのワルい伊達男レット·バトラー氏に助けてもらうわけです。映画でも有名なあのアトランタ炎上のシーンですね。
やっと南部の我が家にたどりついたスカーレット。しかし100人近くいた黒人奴隷はもはや3人しか残っていません。母は腸チフスで死亡、父はボケてて、妹達は寝込んでて、食べるものも財産もゼロ!という状況下で人生再スタートです。まさにドン底中のドン底。
この世は金!!絶対に金持ちになってやるー!!!と焼けてしまった畑でカブを生齧りしながらスカーレットは決意します。悪役令嬢の鑑ですね。
そして手始めに妹の婚約者を横取りして略奪婚。この婚約者が持っていた製材所を、なんと自分の手で経営しだします。もちろん女性がそんな自立したことをする世の中じゃないので周囲からの非難は轟々ですが、女性起業家としてブイブイいわせるんですね。お金儲けのために!
まあそんな目立つことしてたら襲われるのがこの時代の(今もあまり変わらない気も少ししますが)アメリカです。暴漢に襲われかけるスカーレット。そして暴漢へ敵討ちしに出向いた夫はなんと逆に撃ち殺されてしまいます。ちなみに映画ではまるっとカットされているのもこのあたりの描写ですね。
そしてまさかの2度目の未亡人ライフが始まる……というスカーレットの元に弔問にやってきたのは長年の付き合いの、そして今やとってもお金持ちに成り上がっていたあのワルい伊達男レット·バトラー氏。あろうことか未亡人になりたての彼女にここでプロポーズです。現代なら大炎上の暴挙ですが、この世の何よりも金が好きなスカーレット、それを受けてしまいます。
世間の非難などどこ吹く風で、レット·バトラーと結婚したスカーレット。順風満帆に悪い男と悪い女で悪いことしながら豪華三昧贅沢成金ライフを謳歌することに。
しかし、彼女はなんと、まだあの初恋の男アシュリを忘れられずにいたのです。(読んでると割とびっくりです。女心って不思議!)
義理の妹で恋のライバルなのに、いつも何故かスカーレットにはとても優しいアシュリの妻メラニーの本当の気持ちは?
罪作りにもほどがある初恋泥棒·知的イケメンことアシュリの行く末は?
そしてスカーレットとの間に生まれた愛娘を事故で失い、夫婦間に亀裂が生まれてしまう伊達男レット·バトラーの本心は?
衝撃的な結末と、そのあとのエンディング。映画では書かれていない部分は必読です。映画しか知らない人は、是非とも「本当の顛末」を見届けてみてください。
そう、悪役令嬢モノの元祖(だと私は思っています)、そして女性の人生全部盛りのスカーレット·オハラの波瀾万丈な大河小説。秋の夜長に是非、この原作を読んでみてはいかがでしょうか。
ライター:@akinona