まだ青春の名残が色濃いお年頃だった若かりし日、私は、某雑誌の通信販売部で、洋画や洋楽のグッズやポスターを梱包&発送するアルバイトをしていました。
ハリー·ポッターやロード·オブ·ザ·リング(LOTR)、アーティストではアヴリル・ラヴィーンやエミネムなどの輸入ポスターを毎日くるくると細く巻いては専用の段ボールに入れて、伝票を貼り付けてせっせと発送する、そんな日々を送っていたのです。
ハリポタのハーマイオニー、LOTRのアラゴルンやレゴラスなどで私の時給は成り立っていたも同然、つまり、大学生だった私は、『ファンタジーで飯を食っていた』といっても過言ではない(かもしれない)、そんな生活を送っていました。
海外からはるばる入荷したその日に予約注文分が即完売してしまい「やばい…在庫が足りない……」と一同右往左往する羽目になったハーマイオニーのポスター。あの頃のエマ·ワトソンは本当に文字通り『絵に描いたような』美少女だったのでそれも致し方あるまい、といったところでしょうが、私の記憶が確かならば主役のハリーことダニエル·ラドクリフよりも圧倒的に、そして爆発的に売れていたのです(そしてそのかたわらで静かに売れ残るドビーのポスター……)
LOTRも、主役のフロドよりもずっと、アラゴルンやレゴラスのポスターの方が大人気。特にイケメンのエルフ、オーランド·ブルーム演じるレゴラスや、ヴィゴ·モーテンセン演じるアラゴルンのポスターの売れ行きたるや、常に完売と再入荷を繰り返し、在庫管理で皆が苦労した記憶が蘇ります。
この手のファンタジー映画は何故、脇役のポスターばっかりやたら売れるんだろう? と、通信販売部のパートのおばちゃん達一同で首を傾げていた日々が懐かしいものです。
後日きちんとLOTR映画三部作を観て、これが私の時給になった男達か……それはそれとしてイケてる脇役はたまんねえな! そりゃあ売れるわ……と大いに納得するのですが。
今度発表されるという新作のアニメ映画も大いに楽しみにしていますが、LOTRと聞くだけで手がポスターを巻く仕草になってしまいます。ポスターを細く綺麗に巻くのにもちょっとしたコツがあるのですが、ここでは割愛しましょう。
スター·ウォーズの特設サイトを作ったこともありました。あの頃は確かエピソード1·2·3あたりが公開されていた頃だったはずです。
海を渡る途中で壊れてしまったマイナーなキャラクターのフィギュアを貰い受けたり(壊れてなかったら今頃プレミアがついていたのかもしれませんね! 家のどこかにまだ埋もれているはずです)アルバイトにもちょっとした役得というものもあったのです。
ポスターというのはアートとファングッズのちょうど境目の部分に存在するアイテムなのかもしれません。
作品の印象的なシーンや映画館に張ってあるようなキャスト全員が揃った正統派(?)ポスターよりも、俳優さんの顔がバーンと載ったポスターの方の売れ行きが良かったり、洋楽も同じく格好いいロゴ入りで印象的でアーティスティックなポスターよりも、歌手の顔がバーンと載っていた方が売れる、みたいなところがあったのです。
「部屋に飾るんならこっちのほうがかっこよくない?」よりは「推しの顔が第一」だった、そんな印象だったのを今でもよく覚えています(当時はまだ推し活なんて言葉はありませんでしたが)
稀にどちらも兼ね備えた素敵なポスターがあって、私の中で一番印象深かったのはエミネムの自伝的映画『8mile』のポスターでした。結構売れていた覚えがあります。
さて次からは、洋楽のポスターの話になります。
職場のラジオから流れてくるアヴリル·ラヴィーンを聴きながらご本人のポスターを巻いては梱包する日々。時には、商品のポスターがかっこよくて(リンキン·パークの『メテオラ』のポスターだった記憶があります)気になり、雑誌の編集部にあったCD貸し出しコーナーへ足を運んでみたりしたこともあります。
時折メタリカやアイアンメイデンのTシャツを着て歩いているおばちゃんを見るたびに、輸入されてきたマリリン·マンソンやスリップノットのポスター(幅広い商品を取り扱っていたので、アヴリルやエミネムなどといったメジャーなアーティストだけではなく、この手のジャンルのポスターもあったのです)を見て「怖いわあ……なんでこの人たち、こんなおどろおどろしい妖怪みたいな姿をしているのかしら……」と商品を前に真顔で首を傾げている同僚達を横目にポスターを巻いていたことを思い出します。
自分にとっては、愛らしい魔法使いの女の子も見目麗しい銀幕のエルフの王子様も売れっ子洋楽スターも見た目がおっかないヘビメタさん達も、等しく私の大事な『お客様』でした。
けれども、世の中にはいろんなジャンルが存在することや、どのジャンルにもコアなファンがいるということを、私はおそらく、この『お客様』相手のアルバイトで覚えたのです。
まさか何十年も経って、当時のことをこうして記事にするとは思ってもいませんでした。ありがとうポスターを彩った俳優さん女優さんにアーティストの皆さん。そして青春の日々!
ライター: @akinona