美術家・懸谷直弓インタビュー『ポジティブな説得力として作品を作る、その原動力とは?』

· アート

ー 最近の活動やその方針について

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鈴木「懸谷さん、お久しぶりです。懸谷さんとは付き合いは7.8年になるけどなかなか仕事の近況を聞く機会はなかったかも知れないですね。最近は受託の仕事が多いんですか?」

懸谷さん「最近は建築建材および建材のデザインを受けていることが多いですね。

具体的にはハイブランドの店舗の内装および国内外の百貨店、ラグジュアリーホテルなども行っています。

作業環境的には茨城の工業団地の中に工場があって、そこに内装の天井とかに使われるような素材を切断したり加工する場所というのを間借りしていて。

3メートルある3Dプリンタのマシンを置いて作業したりしています。

なので、平日は茨城の工場にいることが多いですね。

ちなみに基本的にはデータを作るところから自分たちで輸出する所までやっています。」

 

ラグジュアリーホテルの内装にも使用されている壁紙の一部

鈴木「ふむふむ。」

懸谷さん「最近の目標としてはプロダクトにも使えるようなハイクオリティなものを作品に落とし込みたい、という気持ちがあります。

製品に落とし込むレベル(基準)はかなり厳しいから、何年持つか?色は褪色しないか?傷がついたらどうなるのか?そういった条件を潜りぬけたものが企業で使えるラインだから、そういったハイクオリティなものを作品に落とし込めたらという感じです。」

鈴木「建築素材に使用するものはより基準が厳しそうだもんね。」

 

ー大きな作品の持つ強い力をポジティブな説得力として伝えていきたい

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懸谷さん「やっぱり一つの軸として、大きな作品を作りたくて作品・アートをやっているというポイントもあります。

大きなものを作るということはその分たくさんの人に届くから、そうやって多くの人が元気になれるものを作りたいんですよね。」

鈴木「インパクトもそうだしエネルギーもある、プラスの影響力みたいな?」

かけやさん「そうそう。人間は自分より大きな存在を見たときにワッと驚くし、強い力を受け取れる。大きな動物に会ったときに会った時のような衝撃が、アートの文脈の根本だと思っている。」

鈴木「岩屋戸に書かれた天照大神も物理的に大きいしね。

たとえば本当は鬼なんていないのに「怖いものを表すときに大きな括りで鬼と呼ぶ」みたいな話もあるように、大きいものには瞬間的に凄いと驚いてしまうような力があるのかもね。」

懸谷さん「そうそう。何かを表現する上で「可笑しみ」とか「鬼」もそうだけど、違うものに例えていくっていうユーモアもある。

ことアートにおいては「人のユーモアが対人にいかにポジティブなチャレンジするか?」というのが大切な気がする。

時代的にネガティブになりやすいけど、私はやっぱりとびきりのポジティブなものを作りたい。」

鈴木「うんうん、反体制派が多い時代で正統派の方が今はいいのかもしれないよね。」

懸谷さん「何か時代によって問題になっている議題を作品で取り上げてしまうと、争いごとになってしまう。

原体験的には「喧嘩をなくしたい」という気持ちがあって、戦争もそこに含まれると思っているんです。

だって、誰かとぶつかっていく喧嘩って昔から人は本能的に嫌だと思っているはず。

そうしたマイナスの事象を全力でなくしたい、その手段がアートで表現する「純度100%の前向きさ」というものであってもいいと考えています。」

鈴木「確かに対立する問題をアート上でやってしまうと喧嘩になるものだしね。」

懸谷さん「要は『でかい喧嘩をなくしたい』って事を言い続けていきたい。

さっきも話したように大きな作品って「これだけの時間を費やした、これだけ大きなものを作る力がある」という裏付けにもなって、それが説得力につながると思うんですよね。

なので、大きな作品の持つインパクトに説得力をつけるための今の活動って感じなのかな。」

 

➖自分と全く違う作風に対しての考えは?

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鈴木「たとえばゲルニカの作品とかはどう思いますか?懸谷さんの作風とはまた違った毛色なので、どう思うかなと。」

懸谷さん「ゲルニカは戦後当時の風潮や感性に寄っているな…という印象があるとも思いつつ、うん、私は書かない系統かなあと。」

鈴木「懸谷さんの作品はあくまで対立軸ではないもの、ですよね。極端な話、戦争要素とかはないような。」

懸谷さん「そうですね、私の作品はみてわかる通り戦争の事とかは描いてないです。それが悪いってわけでは全然ないんですけどね。

作品にもある招き猫も基本的には縁起物って感じなんですけど、そんな宗教的であったり政治的であったりという堅い要素はないので。

自分の絵を受け取った人がちょっと元気になるようなものを作りたいし、そのためにハッピーな要素をギュッと詰めている感じ。

何かに対して反論したり議論するためのアートではなくて、やっぱり観てくれる人がハッピーになってほしい!という気持ちが強いですね。」

鈴木「なるほど、あくまでポジティブな印象を届けたいんですね。

その気持ちが象徴的に出ているのが、この招き猫の作品なのかな。」

懸谷さん「そう思います。両手を上げた招き猫が欲しいと言われたのでそのリクエストに応えつつ、その人の仕事道具の要素も盛り込んでお守りのような作品にしていて。

額も金運が上がるような感じのものを要しているので、“その人のための神様“って感じで。」

鈴木「どんな作品もなんの脈絡もないことはないけど、その原動力や描く理由はそれぞれだもんね。それぞれアートには何か由来や物語があるけど、母数が多いだけでそのどれもが宗教や争いといった堅いものが起源とは限らないですし。

招き猫って宗教的ではないものの、なんとなくハッピーな要素がある縁起物だもんね。」

懸谷さん「ちなみに龍が飴玉を咥えてるイラストがあるんですけど、これは自分が風邪をひいたときに感じた「風邪ひかないでね、元気でいてね」って気持ちを入れ込んだり…(笑)

こうやってちょっとずつポジティブな要素を詰め込んで詰め込んで…そうしたことを120歳くらいまでやれたらいいかなって。」

 

ー 歳を重ねたときにも矛盾がない活動がしたい

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かけやさん「私は自分でも長生きしそうだなって思うから、120になったときにも矛盾のない活動がしたいんですよね。私の見た目が例えば嫌悪感を持たれるような印象に変わったとしても、説得力のある気持ちと作品を作っていきたいというか。

もっと才能のある人もいると思うから、大成功するよりもそういうところを確立していきたい。」

鈴木「才能あるから成功っていうわけではないし、成功の基準も人によりますしね。」

懸谷さん「本当にそう。私の場合の成功は、世の中の嫌だなってことが一つでも消えるような活動をすることかなと思ってるんです。

自分の過去の体験をたどると何かと気を使う場面が多くて、そういうときに色々と考えることもあって。」

鈴木「なるほど。過去の体験が今にも生きている?」

懸谷さん「自分が存在してるだけで肯定されるわけではない、もしくは自分の存在がその場の状況次第で嫌われる存在にもなりうるんだなと思っちゃったりとか…。

そのタイミングでふと『自分がユーモラスにならないと、状況もポジティブになっていかないのかな?』という気づきを感じたんですよね。」

鈴木「自分的に過去の体験から何かを取り返したいという気持ちがあったのかな?」

懸谷さん「そういうところはあったように思います。

そんなふうに肯定されなかったように思えた経験とか含め、どうにか人生を挽回しないと!って気持ちがあったりとか。」

鈴木「そういった原体験や挽回したい気持ちから踏ん張れる力が湧いてるのかな?」

懸谷さん「いやあ、めんどくさい気持ちもありますけどね(笑)」

鈴木「わかります(笑)でも、めんどくさい部分もあるだろうけどそこで踏ん張れるのがすごいというか。僕はそこで最後の最後に頑張りきれなかったりすることもある、そこがやっぱり違うなーと思うよね。

よく思うことだけど、根本的にコンプレックスがある方がアーティスト的にはいいのかもしれない。」

懸谷さん「この業界はコンプレックスを糧にしている人間の方が多いと思います。

要は、自分のような人間にもポジティブな影響を与えたいんですよね。

例えば「テーマパークを行くことを楽しみに仕事を頑張れる!」みたいに相殺できるような体力が私にはないから、それでも大きなアートってそういう人にも届く気がするんですよね。通勤途中に置いてあるオブジェが目に入ったりとか。

意図的に動かなくても日常生活のどこかでパワーを送ることが、大きな作品だとできるような気がするんです。」

ー これからのテーマなど

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鈴木「作品を見ていて思ったんですけど、龍のコンセプトが最近は多いんですか?」

懸谷さん「龍だと天地関係なく描けたりとか、サイズ感もある程度幅が利いたりとか、描いたときの自由度があるんですよね。縁起もいい生き物だし、作品に落とし込むにはかなり良いモチーフな気がしていて。」

鈴木「確かに、架空の動物だからその想像の余地があるよね。」

懸谷さん「それこそ日本人がとらえる龍はわかりやすく多くの人が理解できている上に、創作の幅も持たせられるというイメージ。

最近は龍を執拗に描いていて、龍のモチーフを自分の作品に落とし込む作業をしていきたいと思っていたり。

そうだ、絵に描かれた龍って基本的に怒ったり泣いているような作品が多くないですか?」

鈴木「うんうん、あるある。日光にある泣き龍とかもそうだね。」

懸谷さん「そうそう。そんな表情が多いんだけど、私が描きたいと思っている龍はとにかく明るいものなんですよね。

そもそも縁起のいい生き物だし、泣いていたり怒っていたりする龍もいる中で私は明るいイメージの龍の絵をいっぱい描いていって自分のものに仕上げていきたいんです。」

鈴木「態度って言葉がありますよね、その“意思“って意味での態度というか。

その態度が作品を通して伝わると更にいいよね。」

懸谷さん「そうそう。

みんなこんな時代に体力のない中でアートを見てるという背景もあるから、そういった環境の中でも『あっ、これは懸谷直弓の作品だ』ってストレスなく認知できる画風を身につけたいというのもあります。」

鈴木「わかりやすいアイコンって大事ですよね、その瞬間に伝わってくることの重要さというか。

パッと見たときに「この特徴はこのキャラクターだ!」とわかることが必要だったりしますし。そういった意味でも懸谷さんらしい作品っていうものがある気がします。」

懸谷さん「今のテーマは“龍を作っていきたい“というところもありつつ、私のアーティストとして120年やっていきたい目標は「ポジティブな説得力があって誰も喧嘩をしないもの」を作っていきたいという所。

ちょっとずつだけどアートの世界もポジティブなエネルギーに歩き出しているなという傾向も感じるので。

私が長い時間をかけてポジティブなエネルギーのある作品を作っていく中で、どこかの誰かに「世界は悪くないかも」って思ってもらえるような活動ができたらいいなと思ってます。」