外国のトランプ関税の反応〜イタリア編〜

· アート

ストローマガジンではイタリアの食文化などもお伝えしているが、やはり昨今のトランプ関税は心配だ。アート界にも絶大な影響を及ぼすだろう。すでに冬の時代が来ることは予期されている。そんな最中、このトランプ関税について、各国現地ではどんな反応をしてるのだろうか?

気になったのでとりあえずヴァレンティーナの見解を聞いてみた。

トランプ関税:それは何か?そしてイタリアへの影響は?


米中貿易戦争が激化する中、アメリカ前大統領ドナルド・トランプは、一連の関税を導入し、世界経済の関係性を大きく変えました。これらの関税(輸入品への課税)は「アメリカ・ファースト」政策の一環として導入され、米国の製造業振興、雇用保護、貿易赤字の削減を目的としていました。

最も劇的な措置のいくつかは中国を標的とし、特定の品目には最大145%もの関税が課されました。中国も対抗措置として最大125%の報復関税をアメリカ製品に課しました。しかしその影響は米中関係にとどまらず、トランプは他国にも一律10%の関税を課す方針を打ち出し、一部の国には90日間の猶予期間を設けて交渉または調整の機会を与えました。

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トランプは、外国製品の価格が高くなることでアメリカ人が「アメリカ製品を買う」ようになり、国内生産が刺激され、雇用が守られると主張しました。また、増収分は国内投資に活用されるとも訴えました。「外国による不正行為」や「米国経済の略奪」に対する是正だとし、この主張は物議を醸しつつも、貿易不均衡に対するトランプ政権の「アメリカ・ファースト」戦略の中核を成しました。

影響を受けたのは誰か?
初の関税は2018年3月、鉄鋼に25%、アルミに10%の輸入税として始まりました。これらはカナダ、メキシコ、イタリアを含むEU諸国など、米国の同盟国にも適用されました。自動車産業にも25%の関税が課され、その後自動車部品にも広がりました。さらにカナダからのエネルギー輸出には10%の関税、車両には25%が課されました。

中国との対立も深刻化。2018年2月に中国製品に10%の関税が導入され、4月にはフェンタニル関連製品など一部品目で145%にまで引き上げられました。スマートフォンやコンピューターなど一部の製品には一時的な例外が設けられましたが、トランプはいつでも例外措置を撤回できると発言し、中国との緊張は続きました。

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世界の反応:ヨーロッパの状況
2024年、イタリアは米国への輸出額でEU内第3位に位置し、647億ユーロ相当の財・サービスを米国に輸出しました(出典:Eurostat)。1位はドイツ(1612億ユーロ)、2位はアイルランド(721億ユーロ)ですが、アイルランドの数値は実体経済ではなく、優遇税制の恩恵を受けた多国籍IT企業のサービス輸出が中心です。

しかし、輸出額だけでは不十分で、貿易収支も重要な指標です。イタリアを含む多くの欧州諸国は米国に対して「純輸出国」であり、米国への輸出が輸入を大きく上回っています。たとえばスロバキアは米国への輸出が輸入の5倍、イタリアは2024年に輸出額が輸入の2倍以上で、輸出入比率は150.1%に達しました。

トランプが関税を課した理由は、このような貿易不均衡を是正するためであり、イタリアを含む欧州の輸出が米国の輸入より過度に大きいことが米国経済に害を及ぼしていると主張しました。

ヨーロッパの反応と世界的な変化
EUは90日間の猶予期間中に米国との交渉に即座に入り、合意を模索する一方で、報復措置の準備も進めました。欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は欧州の経済利益を守る姿勢を強調し、ドイツのメルツ新首相もEUの団結によって厳しい対応を和らげる必要性を訴えました。

ベトナムなど他国はこの状況を好機と捉え、米国と二国間貿易協定を結んで対中緊張を利用し、自国を新たな製造・輸出拠点として売り込んでいます。

カナダは10%以上の関税を課されたことで、米国車に25%の報復関税を課しました。この対応は、トランプ政権の政策に対抗する保護主義の表れでもあります。

米国内でも関税への反対は強まり、民主党だけでなく影響力のある共和党議員や経済界も、供給網の混乱、消費者価格の上昇、国際関係の悪化などの懸念を示しました。こうした批判にもかかわらず、トランプは関税政策の正当性を主張し続けましたが、国際的な緊張の高まりの中で、この強硬な貿易政策の持続可能性には疑問の声も強まりました。

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イタリアへの影響:トランプ関税の打撃にどう対応するか?
イタリアも他のEU諸国と同様、トランプの新関税による影響を強く受けています。提案された措置では、イタリア製品に20%の関税が課され、米国市場に大きく依存しているイタリア経済にとって深刻な影響を及ぼす可能性があります。

2023年にはイタリアは673億ユーロ相当の財・サービスを米国に輸出しており、この関税は多くの産業にとって打撃となります。アメリカはイタリアにとって長年の主要貿易相手国であり、今後は米国の消費者や企業がEU製品に20%の関税を支払うことになります。ただし、影響は地域や業種によって異なります。

地域ごとの影響の偏り
イタリア貿易庁のデータによれば、米国向け輸出の半分近くはロンバルディア州、エミリア=ロマーニャ州、トスカーナ州が占めています。これらの地域は産業機械、医薬品、食品・ワイン産業が盛んであり、多くの中小企業が存在しています。

ロンバルディア州(中心都市ミラノ)は前年に137億ユーロを輸出、エミリア=ロマーニャ州とトスカーナ州はそれぞれ105億ユーロ、102億ユーロを輸出しました。特にトスカーナはこれまで米国との貿易黒字で恩恵を受けてきましたが、関税による価格上昇で需要が減少すれば、バランスが崩れる可能性があります。

一方で、リグーリア州、シチリア州、サルデーニャ州といった南部地域はすでに対米輸出がそれぞれ19%、23%、38%減少しており、新たな関税はさらに経済悪化を招く恐れがあります。これらの3地域を除けば、イタリア全土は今もなお対米純輸出国の地位を維持しています。

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リスクにさらされる戦略的産業
関税によって大きな影響を受けるのは、食品・ワイン、ラグジュアリーファッション、産業機械、製薬産業です。これらはイタリアの主要輸出産業であり、中小企業が中心となっています。

特にワイン産業は懸念が大きく、アメリカ人に長年愛されてきたイタリアワインの価格が上昇すれば、他国製品との競争力を失う可能性があります。グッチやプラダに代表される高級ファッションも、関税により米国での需要が落ち込む可能性があります。

製薬品と産業機械も、アメリカ市場への依存度が高いため、価格上昇による需要減少が懸念され、イタリア企業にとっては打撃となり得ます。

政治的・経済的対応
ジョルジョ・メローニ首相は、これまで沈黙していたものの、トランプ関税を「誰にとっても得のない誤り」と非難し、米国との貿易戦争を避けるために合意を目指す姿勢を強調しました。

一方、経済相のジャンカルロ・ジョルジェッティは「報復関税の応酬はすべてにとって悪影響を及ぼす」と警告し、冷静な対応を呼びかけました。また、EUに対し財政規律の一時緩和を求め、関税による打撃を和らげる経済政策の柔軟性を訴えています。

イタリアの経済団体コンフィンドゥストリアは、経済への打撃は深刻になり得ると指摘。2025年のGDP成長率予測はすでに0.6%に下方修正されており、状況が悪化すれば2025年は0.2%、2026年は0.3%にまで落ち込むとの予測もあります。

多くの中小企業にとっては、米国内での生産移転も検討事項となりつつあり、これはまさにトランプの「雇用を米国に戻す」戦略に沿う動きであり、イタリアの経済にとってはさらなる課題となります。

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今後の展望

イタリアと米国の貿易関係の未来は不透明なままです。関税実施の90日間の猶予はありますが、時間は限られています。米欧間の貿易戦争のリスクは現実のものとなっており、イタリアはこの複雑な状況を慎重に乗り切る必要があります。政府の対応次第で、最も打撃を受ける産業がどう適応するかが決まるでしょう。

聞き手:Daiki A. Suzuki

語り手・ライター:ヴァレンティーナ

出典